展開科目Ⅰ類

日本地誌・世界地誌

地域の資源の特性と価値を知るためには、地域がどのように形成され、どのような特性をもつのかを国内外の多様な地域との比較の中で把握することが肝要である。地域の固有性が顕著に反映された文化遺産等は観光資源にもなるが、その成立には文化や歴史、宗教、産業・経済、自然環境、都市構造といった多様な背景が影響している。地域社会はそうした多様な領域が相互に絡み合い、影響を及ぼしながら形成されているという深い理解が重要である。本講義では、地域ごとに異なる地理・自然環境、そうした環境の中で営まれてきた人間活動、形成されてきた文化・歴史等を相互に関係づけながら考え、日本を含め、欧州、中東、アジア、アフリカ地域を中心に、その他地域も参照しながら、世界諸地域の特性と多様性を示していく。

地域資源論

地域のまちづくりや観光を支える資源には様々なものがある。美しく特徴的な山や湖や滝などの自然環境資源、そして城や社寺や町並みなどの有形の文化資源、また祭りをはじめ地域の伝統的な芸能や技術(わざ)とその保持者など無形の文化資源など、人々が魅力を感じるものは多様に存在する。

気候や地形・地質、動植物、そして各時代の政治や経済の状況等と地域資源との関係性を捉えるとともに、これらの変化と合わせて人々の生活や生業が移り変わる中で地域資源がどのように変容・変質をしてきたのかを具体的に捉えながら、「地域性」をもたらす様々な要因と、それを具体的に表す事象との関係について理解を深める。また、地域資源の継承が求められている社会的背景や各地での取組みの動向についても学ぶとともに、関係する制度・事業についての基礎知識を習得する。

博物館概論

近年、博物館には生涯学習・社会教育施設としての役割と同時に、まちづくり・地域活性化の拠点、さらには観光施設としての役割への期待も高まりつつある。それはとりもなおさず、現代社会における博物館の重要性が総体的に増していることを意味している。こうした中で、日本の博物館総数も年々増加し、現在は6,000館以上あるといわれる。

こうした多様な顔を求められる博物館という施設について、その定義や種別から歴史と現状・課題、さらには現行法令との関係などについて幅広く学ぶことで、博物館とは何か?学芸員とは何か?を理解するための基礎的な知識を身につけ、その社会的役割について考えるきっかけとする。

民俗学概論

私たちの周りには、地域や家によって受け継がれてきた様々な民俗文化がある。こうした、暮らしに根ざした身近な文化に焦点をあてることで、自らの知見と照らし合わせつつ、日本人が持つ価値観とその方向性について考える。それが、民俗学が内省の学とも呼ばれる所以である。

民俗学の概説を行うことによって、その基礎的な知識を得るとともに、基本的な民俗の捉え方を養う。先人たちがどのような生活をおくり、どのような「生きがい」を抱いてきたのかを認識し、延いては日本人の考え方や行動のあり方を見つめ直す。

保全生態学概論

地域の生態系は、個体-個体群-生物群集-景観…と重層する生物学的階層構造をとり、各階層が地域固有の観光資源すなわち来訪者(観光客)を惹きつける興味対象となり得る。これに加えて、観光地における生態系は興味対象の「背景」となって観光資源の魅力を高め、さらには観光地全体のアメニティ向上や雰囲気醸成の役割も担う。

他方、多くの観光客を受け入れることは地域の生態系に負の影響を及ぼし、結果として生物多様性を損なう可能性がある。観光振興を図りながらも地域の生態系を適切かつ持続的に保全・活用すべく十分な注意を払う必要があり、そのためには保全生態学の基礎的知識が欠かせない。

保全生態学の基礎的な考え方に加え、生物多様性を維持しつつ地域の観光振興を図ることを前提として、観光と関連性の強い保全生態学的なトピックを紹介し、その問題点と解決の方向性について学ぶ。

地域遺産論

地域の歴史や風土の中で形成されてきたその土地の魅力を、有形・無形、動産・不動産を含めて包括的に掘り起こし、遺産、すなわちみんなで受け継ぐものとして、社会の発展に位置付けていこうとする開発思想が社会に根付きつつある。とりわけ経済の低成長時代に入り、少子高齢化や人口減少が全国的な問題として深刻さを増す中で、弱体化の途にある地域社会を活性化する方法として、その可能性に関心が向けられ、様々な取り組みが展開されている。地球環境への配慮、大規模災害への備えといった要因もこの流れとは無縁ではない。

このような意図をもって認識された遺産を「地域遺産」と呼び、その知覚や認識からまちづくりへの活用までのプロセスを構想し、計画し、実践するための基本的な考え方や基礎知識を、事例を介して学ぶ。

都市建築史

京都市や鎌倉市などに代表される観光都市の多くは、長い時間をかけて発展してきている歴史都市である。ただし、歴史都市といってもその姿は多様であり、古代都市をベースにした奈良市や京都市、近世城下町をベースにした金沢市や彦根市、近代都市をベースにした横浜市や神戸市といったように計画された時代の違いが、都市と建築の姿や観光都市としての魅力の違いにつながっている。従って、これからの観光都市の姿を描くにあたり、都市空間の骨格や町並みを構成する建築群がどのように計画されてきたのか、時代ごとの特徴を知ることは重要である。

日本の都市と建築の計画・設計の歴史に関して、古代から現代に至る大きな潮流を踏まえるとともに、各時代の理念・方法・制度・実例(観光資源)の特徴と変遷、現在の歴史都市が生活都市や観光都市として抱える課題、これからめざすべき都市計画や観光資源を活用した都市再生の方向性について解説する。

都市保全論

都市は、歴史や文化交流の積み重なりのうえに成り立っている。固有の魅力をもち、地元の人々が愛着をもつ地域づくり、都市づくりのためには、そうした地域の歴史や特徴を生かすことが肝要である。一方、そうした地域固有性は必ずしもわかりやすく眼前にあるわけではなく、現代社会の中で埋もれているもの、痕跡が失われてしまったものも多い。

都市を保全するという考え方の展開を示すとともに、都市の中で地域固有性を捉え、保全を進めていく手法を紹介し、地域づくりにおいて不可欠な視点を学ぶ。

文化行政・文化財行政概論

我が国の文化財保護行政は、明治前期に古社寺や古器旧物等の建造物や美術工芸品を保存することから始まり、大正期に史蹟、名勝、天然紀念物を保存するための法律が生まれ、戦後に無形文化財が加わって、これらが文化財保護法の中にまとめられる経緯をとる。

その後、国土開発や都市開発、グローバル化による価値の多様化等が進む中で、民俗文化財や伝統的建造物群が文化財の類型に加えられた。また、平成期に入り、一定の経済成長に達する一方、少子高齢化に伴う人口減少の影響が顕在化する中で、文化的景観が加えられた。これにより、現在の文化財の6類型―有形文化財(建造物・美術工芸品)、無形文化財、民俗文化財、記念物(史跡・名勝・天然記念物)、文化的景観、伝統的建造物群―が揃うことになる。

本講義では、これらを大きく有形の文化財(不動産、動産)と無形の文化財に大別しながらそれぞれの成り立ちと変遷、保護の仕組みについて概観する。また、破壊から守るために社会の仕組みとは切り離されて保護されてきた有形文化財の現在の課題とは何か、社会変容の中で消えゆく人のわざや慣習はどのように残し得るか、文化的景観や民俗文化財等、保護の対象が人々の生活に近いものとなるほど、有形と無形、不動産と動産を截然とは区分できないのは何故か等、守るものの特質や性質によって異なる保護の考え方を理解し、比較を通しながら文化財と地域社会との関係を考える。

風景計画論

風景あるいは景観を計画・設計するという観点に立脚し、人間を取り巻く視覚像である風景を分析的に把握し、予測、評価する方法について学ぶ。風景・景観認識のメカニズム、そして分析から評価、計画に至るプロセスや手法に関する講義を通して、多様かつ複合的な視点をいかに整理し、客観的な分析と評価の対象とするかについて学ぶ。また、風景計画・景観設計の実態を紹介しながら、人々の生活と風景との関わりについても紹介する。

風景の計画、形成に当たっては踏まえるべき原則と、風景に対する時代の志向や価値観、そして地域ならではの環境との関わり方に対する配慮が必要である。地域の歴史的、社会的、文化的背景と、形成される風景との関係について考える。

自然/環境保護行政概論

一言で「環境問題」といっても多様な側面を有している。大気や水に関わる公害問題、地球の温暖化問題、あるいは野生生物の絶滅問題やいわゆる自然保護問題など、対象面でもまた人の営みとの関係についても、空間的な広がりについても様々である。

そうした環境と人為つまり人々の生活や営みとの関係について概観したうえで、観光やまちづくりに関係の深い自然環境の保護問題に焦点を当て、それに関わる行政の取組みやその動向について学ぶ。具体的には、国立公園など原生自然の保護に関わる行政のあり方から、都市における公園や緑地に関わる行政のあり方まで、その現状や現在に至る歴史的な展開についても学ぶ。

文化芸術政策論

1990年代以降、日本の文化政策は大きな変貌を遂げてきた。文化庁や日本芸術文化振興会を中心とした国の文化政策、地方公共団体の文化行政や公立文化施設の動向、民間企業や公益法人、NPOなどの取り組みなどを含め、日本の文化政策の潮流と時代背景を幅広く取り上げることによって、現代における文化芸術の必要性や意義、文化政策の社会的役割について理解を深めることを基本とする。

近年、各地で盛んになっている芸術祭やアートプロジェクト、アーティスト・イン・レジデンス、創造都市政策など、文化芸術を活用した地域活性化、観光振興などの実践例を幅広く取り上げ、本学部の目標である「持続可能な地域経営の実現と地域社会の再構築・振興を領導する人材の育成」につなげていく。

博物館資料保存論

収集した資料を未来に残すため、しっかりと保存し、必要に応じて修理等を施すことは、博物館における最も基本的かつ重要な業務の1つである。博物館は、未来への重い文化的責務を負っているともいえる。この博物館資料の保存と修理は、私たちが日常生活で用いる物の保存や修理とは根本的に異なっており、専門的かつ深い知識と慎重かつ厳格な技術が不可欠となる。

資料の現状把握から展示、修理、梱包・輸送、さらには資料の保存環境(温湿度やIPMから災害対応まで)、修理などの知識を総体的に学ぶことで、博物館における資料保存の意義を科学的に理解することを目指す。また、地域資源・文化財や自然環境の保護(エコミュージアム等)と博物館の役割にも適宜目配りすることで、資料の保存・活用・管理の現場に貢献できる基礎的な能力を養う。

地域文化創造論

私たちの周りには、地域によって受け継がれてきた様々な文化がある。たとえば、慣習として行われる祭礼行事をはじめ、冠婚葬祭や年祝い、あるいは不文律の約束事など、暮らしに根を張った「文化の束」としての地域文化について、民俗誌的発想をもとに、自らの経験知と照らし合わせつつ、地域が持つ価値観とその方向性やアイデンティティーについて考える。

地域文化と文化財、特に民俗文化財としての位置づけ方や、文化財と行政の関係性、あるいは地域住民と文化財の共存共栄について、民俗誌的発想をもとに、如何に現代社会と順応し、適応していくべきかを考える。

世界遺産論

危機に瀕する世界の文化遺産や自然環境を人類共有の遺産として国際協力により保護・継承していくことを目的として、世界遺産という取組みは開始された。しかし、実際にはその保護継承には、都市開発、観光開発、武力紛争、自然災害といった社会事象と関係するさまざまな課題が存在している。

本講義では、世界遺産の制度と保護に関する諸課題を示し、よりよい地域社会・国際社会づくりのため、世界遺産という取組みがどのような意義をもち、どのような貢献ができるのか、そのためにはどのような方策がとられるべきかを考える。