展開科目Ⅱ類

公共政策概論

地域をとりまく様々な政策の中でも、国や地方自治体における公共政策の根幹を理解できるよう、体系や制度についてまず学ぶ。一方で国民、住民に主権があり、政策形成にも主権者の多様な参加が試みられている。そこで、実際の公共政策形成プロセスや制度の運用、また主権者自体が試みる政策形成の事例も順にみていきたい。そうしたさまざまな先進事例を検討することとの中から、グローバル化の時代も背景としながらこれからの公共政策について考えていきたい。

都市計画論

人々が普段生活している町や旅先で出会う魅力的な都市は、個々人の自由な振る舞いだけで自然とその姿に至ったわけではなく、何らかの「計画」の介入のもとで形作られている。地域づくりに携わる者には、その地域がどのような空間づくりの方針のもと計画されているのかを読み解く力や、課題の解決もしくは潜在的な魅力の向上のためにどのような計画技術が適用され得るのかを構想する力が求められる。

その初歩として、本講義では空間をコントロールする技術としての近代都市計画の考え方を受講生が理解することを目的とし、海外において近代都市計画が生まれ公共政策の一部として位置付けられた背景から、日本の都市計画が現在の制度に至った歴史までを概説する。

さらに国内外の事例を参照し、実際の具体的な空間をアーバンデザインの視点から読み解くことで、都市計画法制だけではカバーしきれない現実の空間づくりのトピックを紹介するとともに、関連諸制度の対象・手法・展望・課題に触れ、受講生がさらに多様な計画のテーマ―国土計画、広域計画、都市域外の農村・山間部の計画、参加型まちづくり、歴史文化資源の保全、交通、防災、不動産開発等―を学ぶための基礎知識を獲得することを目指す。

地方自治概論

私たちは、住所を定めて暮らす限り、必ずどこかの市区町村の住民であり、その市区町村を包括する都道府県の住民でもある。住民であることによって、自治体からいろいろなサービスを受けられる。一方で、税金を払うなどの負担を負わなければならない。

現在、少子高齢化、人口減少、国際化、高度情報化など、内外に起こっている諸変化は、1,700あまりある全国の自治体における様々な課題を生み出し、新たな対応を迫っている。その自治体の取り組み方は私たち住民の日常のくらしにも影響を与えている。

自治体とは何か、なぜ地方自治は求められるのか、この疑問から出発して、現在の日本の地方自治のあゆみを含め、それを支えている考え方や仕組みについて、法制度(中央政府と自治体の関係)、政治機構(首長と議会)、財源、職員、組織、市民関係などに着目して多角的に学ぶ。

行財政概論

本講義は、主に日本の国・地方における行財政制度について検討するものである。前半では、受講学生が基礎的な行財政のしくみを把握することを目指す。主なトピックスは、内閣制度、行政組織、公務員制度、官(公)民関係とガバナンス、予算制度、税制、中央地方関係、地方行財政制度などであり、近年の状況に触れつつ講義する。後半は、観光政策をめぐる行財政上の諸課題について、国際比較あるいは自治体間比較を交えながら、受講学生と共に検討する。取り上げるテーマとしては、観光庁の設置と省庁間関係、中心市街地の活性化と観光政策、観光政策における(公務)人材の確保などを想定している。特に後半では、前半で学んだ内容を用いて各テーマの整理と検討を学生自身が主体的に行うことで、習得した知見の定着と応用力の育成を図る。

まちづくり論

まちづくりの理論、およびまちづくりに必要な方法と技術を学ぶ。

まず、まちづくりが成立した社会的、時代的な背景、および思想について学び、まちづくりの意義と価値について理解する。その上で、まちづくりのプロセス(まちを知る、理解する、世話する)、主体と組織化、合意形成・意思決定、規則・ルール、事業化、経営・マネジメントを学び、まちづくりを推進する上で必要とされる方法と技術を理解する。さらに、変動が著しい現代社会で、まちとまちづくりの将来を構想し、展望するために必要とされる、まちとまちづくりのデザイン論について学ぶ。

観光まちづくりを学び、実践する上での基礎を身に付ける。

国土・地方政策論

本科目は、主に都市圏、地方圏、国土といった一都市を超える大きなスケールで社会基盤の整備や資源の保全活用を構想し計画する国土政策・国土計画や地方政策・地方計画について学ぶ。複雑な地形と多様な資源を有する日本の国土は、私たちの生活を支える基盤であり、既存の自然、社会、経済、文化を考慮しつつ、総合的、長期的な観点で有効利用を図る必要があり、ここに国土政策・計画および地方政策・地方計画の役割がある。

主にわが国の国土政策・国土計画および地方政策・地方計画を取り上げ、社会経済状況に対応した計画内容とその変遷、空間のスケールと正確に応じた計画内容とその変遷を説明した上で、これからの時代に適応する国土の利用と形成、保全のあり方について学ぶ。

田園回帰論

2014年の消滅可能性都市のレポートを受け、全国の自治体が都市部からの移住者の受入に乗り出した。都会から農山漁村への移住という物理的移動だけでなく、都市住民が地方へ向けるまなざしの変化を田園回帰と呼ぶ。

過疎対策としての移住者受入を行っていた自治体だけでなく、人口減少対策としての移住者受入に動いた自治体が増える中で、地方移住の現状とさまざまな課題を地域でどう解決していったのかを全国の自治体の取り組みから学ぶ。

農山漁村論

農山村の地域構造の原型ともいえる「家と集落(むら)の関係」を理解し、農山村地域が今日に至るまで直面してきた社会的諸問題を考えながら、その解決手段として試みられてきた地域づくりの展開を探る。また、積極的に地域づくりを進める上で不可欠な視点である「地域経済」に焦点を当て、地域資源をもとにした産業基盤(とりわけ農山村地域の主要産業である第1次産業)への理解を深め、グローバル化に直面する中での地場産業の変化と課題、また対応する試みを学ぶ。漁村についても、適宜、関連する論点を扱う。

交通計画 Ⅰ

人や物はなぜ移動するのか。地域には様々な施設が立地しており、施設間では人や物が行き来する交通が必要不可欠である。

人が移動するための交通計画を中心に、都市と交通の歴史、調査方法、計画技術、について学ぶ。

また、従来の交通計画では通勤・通学といった需要に対応するための大量輸送が重視されてきたが、介護・通院や余暇等の観光行動にかかわる交通課題についても事例を交えて概説する。

交通計画 Ⅱ

人や物はなぜ移動するのか。地域には様々な施設が立地しており、施設間では人や物が行き来する交通が必要不可欠である。

交通計画と対をなす土地利用計画との関係を説明しつつ、民間鉄道の沿線開発、コンパクトシティ、スマートシティなどの都市交通政策について学ぶ。

また、近年ネット通販から派生する物の輸送を中心に、都市物流計画の考え方、民間部門と公共部門の役割、計画手法、今後の課題等について学ぶ。

地域デザイン論

地域に暮らす住民と一時的に訪れる観光客とでは、地域に求める機能も行動も自ずと異なる。この違いをふまえ、両者が共存できる多様なスケールでの有機的かつ魅力的な地域デザインが求められている。一方で、人口減少と社会の成熟化、グローバル化の中で、各種機能の再編や観光への新たな志向、「住んで良し、訪れて良し」の地域づくりへの志向、東日本大震災以降顕著な多地域居住や移住への関心の高まりといった動向は、従来の概念を越える新たな可能性を有しているとも捉えられる。地域デザインは、フィジカルなデザインだけでなく、そこに関わる多様な主体間の関係性デザイン、管理運営をも含めた中長期にわたるプロセスのデザインをあわせて考えていかなければならない。

具体の事例紹介を豊富に盛り込んで、住民と観光客をはじめとする地域に関わる多様な主体のより幸せな共存を可能とする地域デザインの考え方と技術を学ぶ。

プロダクトデザイン(地域と杉)

近年、都市の木質化―すなわち、公共建築を含めた身近な環境づくりに自然資源である木材を多用することが推奨されている。特に、木材の地産地消に貢献するという観点から、身近で入手しやすい杉は有用な素材である。

杉は誰でも知っている木であるが、学名 Cryptomeria japonicaといい、日本原産で日本固有の樹木である。神が降臨するご神木として、また、建築の最もポピュラーな木として、永く日本の地域に無くてはならない素材であった。戦後まで日本の山は杉だらけで日本各地で林業、木材業は繁栄した。ところが戦後の輸入木材の自由化、また花粉症の根源と言われ、急速に杉は表舞台から姿を消し衰退していく。しかし杉は衣食住に深く関わり、植林も代々引き継がれて来た。まさに日本文化をつくってきた素材とも言える。

こうした背景を踏まえ、本授業ではプロダクトデザインに木材を活用することの意義や、素材としての木材の特徴を理解するとともに、木材の中でも特に杉に着目し、その魅力と地域に於ける杉利用の可能性を学ぶ。解説にあたっては、杉材をつかった具体的なデザインプロジェクトを紹介する。事例に触れることで、同じ杉でありながら、使い方によって地域の魅力づくりに大きく貢献することを実感する。

住民参加と合意形成

 私たちが地域で生活を営む上では、解決を要する公共的課題が数多く発生する。たとえば、高齢者や障害者の生活支援、子育てや介護の社会化の推進、循環型社会の構築、中心市街地活性化、防犯・防災のまちづくり、地域公共交通の活性化、観光資源の発掘など実に多様である。

今日、縮小する日本の地域社会が抱える多様な公共的課題を解決するにあたって、住民のみならず、多様な利害関係者が一致協力して取り組んでいく必要があり、その際の拠り所となるのが住民参加と合意形成である。

行政への住民参加、住民・行政の協働、住民自治への流れを概観し、個別具体的な政策分野を対象として、住民がどのような根拠で、またどのような制度を通して自治体の運営に参加できるか、またどのように合意形成を図り、その意思を反映させていくかを、具体的事例を交えながら住民主体の地域政策形成に必要な視点や手法、課題などを学ぶ。

地域減災論

日本は自然災害の多い地域であり、地震、津波、火山噴火、台風、豪雨などによって大きな被害が発生している。このような自然災害から市民の生活を守り安心して暮らしていけるように、日常時から防災・減災まちづくりを推し進めることは重要である。また、このような取り組みは、一般市街地だけではなく、多くの観光客が滞在している観光地においても同様に重要である。

地域で求められる防災・減災・復興まちづくりに関して、防災・減災まちづくりの仕組み、一般市街地と観光地における防災活動、災害を引き起こす自然現象と発生する被害、過去の代表的な自然災害と復興まちづくり、新たな取り組みとしての地域協働型の事前復興まちづくり、たまプラーザキャンパスと防災・減災まちづくり、について学ぶ。

アートと地域振興

近年、地域の新たな価値発見や人々のつながりを生み出すアートプロジェクトが増えている。人口減少や気候の変化、災害の増加などにより、社会全体のしくみ、近代都市計画の手法の見直しが必要な現代において、地域住民・自治体・事業者等の新たな関係性の構築、社会実験などを用いた柔軟な計画が不可欠であり、その推進に、地域の価値や課題を発見し、切り込むアートの思考、アプローチが求められている。地域の文化・コミュニティ・教育・福祉・医療・観光などを横断的につなぎ、総合的に地域再生をすすめうるアートの考え方とプログラムを、日本国内、海外各地の事例をもとに考察し、地域の課題解決にむけた柔軟な思考を身につける。

リノベーション論

地域の歴史を刻む古い建物や路地、まつり、生活作法等は、まちのコミュニティや自立的経済を育むに欠かせない、地域の持続や復興の拠り所である。各地で若い世代が自らの生活や事業の拠点として、古い建物を保存活用、リノベーションし、まち全体の活力につなげている。

東京、谷中地区や全国の歴史ある建物や路地、緑地を生かす人々の取り組み、国や自治体の制度事業、企業や金融機関等の支援の仕組みを学ぶ。

大都市でも地方でも、地域の文化資源、生活文化の特性を活かしたまちを次々世代まで渡していける方法を考えていく。

コミュニティ起業論

コミュニティ・ビジネスとは、地域課題の解決を「ビジネス」の手法で取り組むものだが、実際に地域で起業するには様々なハードルがある。人口減少に悩む農山村においても、雇用の場が少ないためにそこに住むことを諦めるケースも少なくない。

こうした地域のなりわいをつくる「起業」だけでなく、もともとあった生業を引き継ぐ「継業」について学び、地域を維持するビジネスプランの提案も行う。

エリアマネジメント論

近年、まちづくりの中で、エリアマネジメントという言葉が盛んに使われるようになってきた。これは、今までの都市計画における「つくる」まちづくりから「育てる」まちづくりへの重要性が認識されつつある。地域の特性を活かし、いかに地域価値を高めるか、あるいは、その価値を下げないような取り組みはどうあるべきかということについて考えていくことが必要である。

海外に目を向ければ、日本のエリアマネジメントと類似する仕組みとして、Business Improvement District(BID)が存在する。アメリカでは、Clean and safe(清掃と防犯)がBIDの主な役割であったが、近年では、マーケティングや雇用の斡旋などにまでその取組を広げている。

日本におけるエリアマネジメントの多様な事例と海外BIDの取り組みから、今後の日本におけるエリアマネジメントがどうあるべきかを考えていく。

不動産投資論

地域にいかに外部からの投資を呼び込むか、その視点から地域創生を論じることは非常に重要である。単に公的支援を拡充するという方向での取組みには限界があり、不動産投資または不動産ファイナンスという観点からの創意工夫が必要になる。

「不動産投資」の基礎を(1) 不動産マーケットと不動産価格形成の構造(投資採算性の見方を含む)(2) 不動産の証券化、(3) 公的金融支援制度、(4) 地域創生とファイナンス、(5) 開発投資の事例 等について学ぶ。